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佐久間マリのオリジナル小説ブログ 18才未満の方の閲覧はご遠慮ください

   
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エブリデイ キス!(6)
(6)

 私のお願いが通じたのか、宗久の仕事は無事終わり、日曜日は予定通り昼から会えることになった。
 だったら会うまで少し仮眠が取れるなと安心したけどそれは大間違いで、クライアントの連絡待ちで午前中もずっと会社に詰めてるらしい。大変。
 待ち合わせはどうしようかということになって、Mデザインの最寄りの駅、つまりは宗久の家の最寄りでもあるんだけどそこまで私が行くことになった。そうしたら少しでも早く会えるもんね。今日は私もスニーカーでカジュアルに。こういうカッコだってできるんだから。
 駅前のカフェに行くと既に宗久が待っていた。文庫本を読んでる。意外。本とか読むんだ。
 すぐに私に気づいて軽く合図をしてくれた。昨日と同じ格好で、やっぱり家に帰る時間はなかったんだ。ご丁寧に眼鏡までかけてくれちゃって、もう。かっこよくて、なのに悲しくなるのはどうして。
「雰囲気違うから最初わかんなかった。そういうカッコも似合うね」
「ありがと。会社だとこういうわけにはいかないけど」
 二人ともお昼ご飯がまだだったので、ここで済ませることにする。メニューを見ると、フードも充実していてすごくおいしそう。この辺りはSOHOとかアトリエとかも多くて、一昨日の夜行ったダイニングバーもそうだけど雰囲気のいい飲食店がたくさんある。よく雑誌とかでも特集されているし。私はパンが好きなんだけど、美味しいパン屋さんも多いらしいから開拓するのが楽しみ。
 食べながら、今からどこに行くか、何をするかっていう話になる。
「行きたいところ、考えた?」
「うーん。特にない」
「買物とかは?」
「今日はいい」
「じゃあ、どうする?」
「やっぱり今日はゆっくりしようよ。寝てないんでしょ?」
「仮眠したから、俺は元気なんだけど」
「家にお邪魔しちゃダメ?」
「だって寝不足よりつらいからね、我慢するの」
 テーブルにぐでっとなって言う。別にそんなに意地にならなくても。そのあたりはちょっと強引なくらいでもいいのに。なんて、そんな微妙な乙女心を察してもらえるはずもない。ここは私が大人にならなきゃ。
「我慢しなくてもいいから」
「えっ、まじで」
 宗久がぱっと起き上がった。もー、早速顔が輝いてますけど。わかりやすいなあ。犬みたいな反応はかわいいし、そんなふうに喜んでもらえると嬉しいけどさ。
「言っておくけど元気だったらだよ! 疲れてなかったらの話!」
 もう恥ずかしいよ。なんなの、盛りのついた高校生じゃあるまいし。私達アラサーだよ?
「元気。すっげえ元気。全然疲れてない。超元気」
「自重はどこへ行ったの?」
「いや、わかってる。我慢できるとこまではする。努力はする」
 黙ってればかっこいいのに。ああ、こういうのを今流行の残念なイケメンっていうのか。
 まあ、お互いに言いたいことも言えなくて、胸の内を探り合うよりはいいかな。私も、一人で考えたり悩む前に、まず言葉で伝える努力をしようと人知れず誓ったところで、思わずため息。宗久が今からする努力に比べたら、私のはなんて健全なんだろう。
 早速「善は急げ」なんて言って、すっかり冷めてる食後のコーヒーを一気に飲み干してる。
「じゃあ、行こっか」
「うん」
 宗久が私の分もお会計も一緒にしてくれるから困る。
「自分で払うから」
「いいって、こんくらい。わざわざ来てもらったしさ」
 実は一昨日の夜も宗久にご馳走になってる。でも、私達同い年だし、そういうの困る。負担になりたくないのが本音だけど、それをあまり言うのは失礼だし。
「したら、その代わり、晩飯作って」
「えっ、あ、うん。いいよ」
「やった。楽しみ」
 少し気が楽になった。材料を私が買えば、今日のところはお互い様ってことになるかな。
 宗久は自転車をお店の前に停めていた。白と黒のごつごつとしてかっこいいやつ。オシャレ系自転車とでもいうの? 詳しくないからよくわかんないけど、彼にはよく似合ってる。それを押しながら、宗久の家まで並んで歩く。
「夜、何にしよう? 食べたいものある?」
「なんでもいいよ。桃ちゃんの得意なやつで」
「宗久は何が好き? 嫌いなものはある?」
「何でも好きだけど強いて言えば和食が好きかなー」
「渋いね」
「あっさり優しい味に飢えてんの。普段、味濃いのばっかだから」
 いろいろ話しながら、マンションまでは時間にして十分くらい。お互いのことを何も知らない私たちには短すぎる時間だ。
 スーパーは駅と反対側だというので、買い物にはまた後で行くことにして、ひとまず家に帰る。ジャラジャラうるさい鍵の一つで宗久がドアを開けてくれて、先に中に通された。宗久の部屋の匂いを懐かしいって思っちゃった。まだ二度目なのに。
「あ、適当に座って。コーヒー……」
「ううん、いい。さっき飲んだし」
「だよね」
 促されて腰掛けた飴色の皮のソファはワンルームには相応しいとは言えない大きさで、部屋の中のかなり場所を占めているけど座り心地はいい。
 宗久は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出して、その場で立ちながら飲んだ。
 隣に来て欲しいな。取り立ててすることもないし、弾んでた会話もいつのまにかなくなっちゃって、妙な静寂。宗久も同じように感じたのか、音楽でもかけるわと言ってi-podを操作する。流れ始めたのは洋楽だった。
 そのままパソコンの前の椅子に座るから、思い切って言う。
「こっちに一緒に座ろうよ」
「無理です」
「我慢してるから?」
「うん」
 私は立ち上がって宗久のところまで行く。と言っても数歩だけど。
「なんのために帰ってきたのかわかんないじゃん」
「桃子はなんのために帰ってきたの?」
「宗久とくっつくため」
 くるくる左右に動く椅子にだらしなく腰掛ける宗久の前に立って、ちょっと勇気を出して言ってみた。
「したら、くっつこ」
 そう言って、私を膝の上に乗せた。私のうなじに手を差し入れそのまま引き寄せ、そして自らも背筋を伸ばして顔を寄せ合う。ほっぺたとか鼻の先に触れるだけのキスをされる。おでことか、瞼とかにも。でも、肝心の唇には全然キスしてくれない。
 だから今度は私からキスする。といっても宗久がしてくれたのを真似して、いろんなところに唇を当てるだけ。それでも全然ノってきてくれない。しびれを切らして、頼りなく開い口から吐息をこぼしたとき、宗久がやんわりと私の身体を離した。
「煽んないで」
「どうして。……キス、したいの」
「だからやばいんだって。キスしたらたぶん、止まんない」
 この期に及んでまだそんなこと言ってるの。私がOKなんだから自重なんて必要ないし、宗久のエッチしたいって気持ちは我慢できちゃう程度のものなのとかお門違いの悲しみまでわいてきちゃう始末。もうわけわかんなくなってきて、泣きそうになりながら宗久に抱きついた。そしてその首筋にちゅっとキスをする。誘ってるとかじゃなくてそうせずにはいられなかった。
 何箇所かキスの場所を変えて、次に耳たぶを甘噛みしようとしたとき、また身体を引かれた。拒絶されたかのと不安になったのも一瞬で、
「俺は我慢したんだからね」
 呆れたようにそう言って、そのまま私を横抱きして立ち上がるから、一瞬で素面に戻る。
「お、おろして! 重いから!」
「こんくらい大丈夫だって」
 その言葉どおり、わりと易々とベッドまで運び、ゆっくりとそこに私を横たえる。お姫様抱っこって、実際されると体重のことが気になって、一刻も早く下ろして欲しいものなのだと学ぶ。それを涼しい顔してやってくれちゃって嬉しいやら恥ずかしいやら申し訳ないやら。
「したかったの?」
 組み敷かれて、真上からしっかり目を見て尋ねられる。私は恥ずかしさに目を逸らしながら、うんと小さく小さく答えた。そこでようやくキス。丁寧で優しいキスはまるでご褒美みたい。
「キスもしたかった?」
「うん」
「いいね、積極的なの大歓迎」 

  
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