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佐久間マリのオリジナル小説ブログ 18才未満の方の閲覧はご遠慮ください

   
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たぶん、きっと、ずっと、僕は14
14.

 メッセージの受信を知らせる着信音が鳴る。
 歩は上昇するエレベーターの中でそれを確認した。
『大丈夫! でも夜中になっちゃうかもしれない。いい?』
 今日会える時間があるかと茉莉菜に尋ねたその答えだ。
『うん。仕事終わったら連絡して』
『わーい! 朝からずっと撮影でもうくたくたなんだけどアユムくんに会えるのを励みに頑張る!』
『いや、俺が茉莉菜のマンションへ行くから』
 歩が返すと、
『ええ!? うちに!?』
 散らかってるよ。どうしよう。でも嬉しい。楽しみ。
 茉莉菜の慌てふためいた様子が伝わってきて胸が痛い。
 初めて茉莉菜のマンションを訪れるのがこんな機会になるとは思わなかった。いくら歩が出不精で、互いが人目を憚る職業だと言っても、たまには自分から会いに行くべきだった。恋人同士ならそれが当然だ。そう思っても今さら遅い。
「結局、もうそれが答えだったんだよな……」
 歩は溜息をつきながら、狭い空間を照らす明るいのか暗いのかわからない天井の照明を仰いだ。
 もうすぐ着くとタクシーの中から雅和に連絡しておいたので、帰ると鍋はちょうど食べごろだった。
 ただ、やたらと部屋の中は静かで、卓上のガスコンロに乗せられた鍋がぐつぐつと煮えかえる音だけがする。それは音符となって歩の頭の中の五線に並ぶ。
「おかえり」
 歩の帰宅を待たんとばかりに三人はすでにダイニングテーブルに着いている。
「……どうしたの、なんかあった?」
 口数も少なく、三人それぞれの顔つきを見て歩は言った。
 さながら、留守中に悪事がばれた息子の帰宅を待っている怒る父、ハラハラする母、それをばらしてしまった息子の友達的な決まりの悪い第三者といったところか。
「た、食べましょうよ、ともかく……ね?」
 歩のキャスティングそのままの位置づけで、無駄に明るい調子で雅和が言ったのを一太郎の一言が一蹴する。
「きりやん、元サヤなの?」
 その時の両側の二人の顔と言ったらまるで絵に描いたようなもので、歩は思わず笑いそうになった。
 一太郎は、一見抜けているように見えるが実はメンバーの誰より鋭く、そして何事にもためらいがない。何で気づかれたのかと思う反面、最近の変化には自覚があった。それに今の生活ではメンバーに隠しておくことの方が難しいし、もとより隠す必要もない。歩も今日は、みんなにさゆりとの再会を話すつもりで帰ってきたのだ。むしろこのタイミングで問われるとはさすがメンバーだ。通じ合っている。
「歩! 私は賛成よっ! 応援するわ! 離れててもずっと好きだった……それでこそ純愛よー!」
「え?」
「お前、まさかN県まで車で行ったのか……」
「……は?」
「だからってリリィって名前はどうかと思うよ。しのしの引いてなかった?」
 それぞれに方向性から温度差まで大きな違いは見られるものの、歩を抜きにひととおりの結論にまで至っているようだ。
 歩はとうとう堪えきれず笑い出した。この三人がいたから今日までやってこられたのだとしみじみ思う。どんなに辛かった時も。
 とりあえず手洗いとうがいをしてきなさいと言う雅和に従ってから、席につく。
「いや、マジで、会いに帰ったわけじゃなくて、さゆりに会ったのは偶然っていうか、まあ家までは確かに行ったんだけど……」
「すげえな! 太郎、お前ほぼ当たってんじゃん!」
「言ったとおりでしょ。恐れ入ったか」
 湯気の立ち上るキムチ鍋を取り分けてもらいながら、再会からのいきさつを話すも、それは一太郎の仮説を裏付けただけの説明に成り下がっていた。すでに得意気な一太郎だが、実際その推察力はもはや敬意を表したくなるレベルだ。
「で、しのしのは元気だった? キレイになっててちょっとびっくりした」
「え、見たの? いつ?」
「今日。たまたま客席にいるの見つけた。それで全部がつながったわけ」
「あー、うん。元気だったよ。見た目はやっぱ昔とは違うけど、中身はそんなに変わらねえよな。天狗になってんじゃないかって怒られたわ」
「さゆりちゃんの一言って時に槙ちゃんより怖いわ。こういうのをトラウマって言うのね。みんな、初心を忘れないように気をつけましょう」
 雅和は神妙な顔でみんなを見渡し、注意を喚起する。
「……さゆり、俺らの歌聞くの久しぶりだったんだって。でも、今日見られてよかったって。友君はベース上手くなったねってさ。よかったね」
  歩がそう言ってにやりと笑うと、友樹は喜ぶでもなく、むしろ眉をひそめて、
「お前のことは……? なんか言われたか?」
「うん。褒めてくれたよ」
「そうか……そうか! よかったな……!」
 そしてそこで初めて相好を崩した。
「で、どうすんの? いろいろ問題はあるよね」
 一太郎が缶コーラを飲みながら言った。友樹と雅和はビールだが、一太郎だけはだいたいいつもコーラで、そのため歩の家には箱で買い置きしてある。酒が飲めないわけではなく、飲まないだけだというのは本人談だ。
「私は賛成よっ!」 
 握った拳に力をこめて言う雅和を一太郎は、はいはいとたしなめてから、
「まあ、賛成とか反対とか外野がどうこういったところで、きりやんの中ではもう決まってるんでしょ、答えは」
 歩は炭酸入りの水を口に含んだ。普段はビールの歩も、今日はこの後、車で出かけなければならない。
 歩は自分がどうしたいのかはわかっている。けれど、どうするかはわからない。もう感情だけで突っ走れるほど、歩に自由はないからだ。
*
 歩のマンションもたいがい厳しいセキュリティによって守られているが、茉莉菜の住まいはそれ以上だった。
 駐車場は事前に茉莉菜から連絡をもらっていた何桁だったかのパスワードの入力をすることでようやくゲートが下り、第一エントランスで、これまた茉莉菜から伝えられている暗証番号を要求され、第二エントランスでようやく部屋番号を呼び出すことができた。もちろんエレベーターは指示するまでもなく招待のある階にしか停止しない。防犯というよりもプライバシーに重きを置いたゲーテットマンションだから、芸能人御用達なのだろう。歩自身、住民に出くわさないことを願ったが誰に会うこともなかった。もっとも時間が時間だということもあるし、例えば有人のエレベーターを避けることができたり、数あるセキュリティーゲートが誰にも会うことなく移動できるシステムを整えているのかもしれない。
「ただ、日ごろから通うにはちょっと面倒なマンションだな」
 自分の部屋を逢引場所にしていたのは正解だったかもしれないと歩は自分を正当化してみる。
「アユムくん!」
 ようやく辿り着いたドアのチャイムを押すと、ノーメイクの茉莉菜が顔を出した。深夜の時間帯には似つかないはじけんばかりのまぶしい笑顔だ。
 茉莉菜の部屋は、知らない、けれど人の生活の匂いがした。
「いらっしゃい! 久しぶりー!」
 そう言って抱きついてきた茉莉菜の身体を歩はそっとはがす。
「ごめん、急に」
「ホントだよ。急に来てくれるなんていうからびっくりした! もー、急いで片づけたよー! あっ、来て欲しくないとかじゃないよ! 全然いいんだよ! 大歓迎!」
「ごめん。今日みんなうちに来てて、そのまま泊まってるから」
「そうだ! 今日シークレットライブだったんでしょ! その時間、ちょうど空きだったんだよー。行きたかった! とにかく入って、入って!」
 茉莉菜は男の歩が足を入れるに恥ずかしいような大きな造花のついた白いスリッパを出した。
 しかし、歩はスニーカーを脱ごうとしない。
「……どう、したの?」
「今日は話があって来た」
「ちょっと、まって……なに? もしかして……かなしい、お知らせ……?」
 そこで頷くのはどうも自惚れている気がして、歩は廊下に視線を落としただけだった。茉莉菜の部屋は白いフローリングだ。けれど自惚れ云々など関係なく、いい報せであるはずはない。
「待って……」
 リビングに続く廊下の少し先で、足が止まってしまった茉莉菜は同じようにフローリングを見ていた。やがて、着ていたカットソーの裾を握ってもじもじとさせながら、
「あ、明日も撮影なの……。目が腫れちゃうと困るから、今日は、待って……ほしい」
 と顔を上げて笑う。
 歩はそこで始めて、この訪問の目的が自分本位の身勝手な行動であると気づいた。もう少し配慮が必要だった。
「ともかくあがってよ。せっかくだし……そうだ! ケーキも買って来たんだ」
「こんな時間だけど、いいの?」
 やはりその職業柄、茉莉菜は日ごろから体形維持には気を遣っている。食事にしても量が極端に少ないことはいつも歩の心配の種だった。
「き、今日は特別……はは……やだ、ごめ……」
 茉莉菜は気丈に言い切ったその後でとうとう涙をこぼした。それはまさに意思とはうらはらにこぼれる涙のようで、笑っているのに泣いている。いや、泣いているのに笑っているのか、そのどちらだろう。
 違う意味で特別に思ってケーキを用意したことは想像に難くない。
「ケーキ、食べよう」
 歩は家に上がり、そっと茉莉菜の身体を抱き寄せた。
 別れを前提にしてそれは残酷な行為なのかもしれないと歩は一瞬迷ったが、何より今は茉莉菜の涙を止めなければならない。
 二人でしていた恋愛に、一人が勝手に幕を下ろすことなどできないのだ。
 茉莉菜の部屋は白とパステルカラーで統一されていた。男には落ち着かないが、彼女らしいまるで部屋全体が砂糖菓子のような、かわいらしいインテリアだった。繊細なティーカップに入れられた甘い色の紅茶は部屋の雰囲気にぴったりだ。
 二種類のケーキは、あらかじめどちらがどれか決まっていて、歩にはガトーショコラ、茉莉菜は自分にフルーツタルトを選んでいた。
「四宮さゆり、さん?」
「……な、んで?」
「この前、卒アル見ちゃったの。……ごめんね。勝手に」
 歩は首を振る。茉莉菜が見てはいけないものなどないし、見られて困るものなら不用意に置きっぱなしにしていた歩が悪い。もとより、恋人を不安にさせたという点で歩は恥じなければならなかった。
「付き合ってたの?」
「うん」
「いつ?」
 茉莉菜は続けざまに尋ねるも、それはけして尋問口調ではなく、きわめて穏やかな会話の流れのなかだった。
「……デビュー前まで」
「デビューが決まって別れたの?」
「いや、上京する直前に振られた」
「えっ」
 思わず声を上げた茉莉菜に、歩は視線を上げる。
「いや、アユムくんを振る人なんているだと思って」
「いるよ。実際、いたし……」
「それで? よりを戻そうって言ってきたの?」
 歩は、違うと首を振る。
「なら、どうして……!」
「向こうは男いるかもしれないし」
 答えになっているような、いないような回答だったが、茉莉菜は悲しくもそれを察したらしい。
「……そっか。アユムくんはさゆりさんが好きなんだね、今も……」
 凪いだような目で言い、
「聞かせて、どんな恋だったのか。いつから付き合ってたの?」
 とその感情のない瞳にうっすら涙を溜めた。
 さゆりとの歴史のはじまりは十四歳、中学二年生のときだ。
「そんなに長く? ねえ、どっちから告白したの?」
「……俺、から」
「なんて言ったの?」
「そんなこと……聞きたい?」
 茉莉菜が頷くので、それが正しくとも間違っていようとも今の歩に拒否権はない。
「彼女は一瞬エッジワースでキーボードをやってたんだけど、雅和がドラムで加わることになった時に抜けるって言うから……、俺の彼女になってくれるんだったら抜けてもいいよって」
「何それ! 何でそんな上から目線なの!」
「確かに……まあ、中学生なんてそんなもんでしょ……」
「エジワスはバンド内恋愛禁止じゃなかったんだ?」
「その頃そういうルールを作ってるバンドがあるってのも知らなかったし、そもそもバンドに誘ったのも口実だったから……。でも、太郎や友樹とずっと一緒につるんで仲良かったから、二人のことを好きになるんじゃないかとか二人に取られるんじゃないかっていつも焦ってた。俺が誘ったんだから俺のものだって無言の圧力は常にあいつらにかけてたけど」
「超自己チュー」
 茉莉菜は笑う。それは自虐的というより、今は一切の感情を封印し、単純に他人の恋愛話として楽しんでいるようにうかがえた。
「それで? さゆりさんはオーケーしてくれたんだ?」
「うん、まあ……」
「どんな人なの?」
「ごめん、ほんと勘弁して……。特に茉莉菜にはこんな話、どっちかっていうとしたくない……」
「ううん、聞きたいの。なんでもいいから、聞きたいの。……不思議だね。辛いことなのに、全然いい話じゃないのに……アユムくんと話してると悲しく思わないよ」
 それは防衛本能が働いて、感情を麻痺させているだけだ。
「ごめん、俺、自分がすっきりしたいだけの自己満足だわ」
「ちがうよ。誠意でしょう」
 茉莉菜はそう言うと立ち上がって、ソファに座っていた歩の隣に腰を下ろす。
「でも、お願い……今夜は一人にしないで」
 歩の首に細い腕が回る。茉莉菜はごく自然な流れで歩の頬に唇を寄せ、やがて、躊躇いながら今度は唇に口付けた。しかし、歩がそのキスに応えることはない。
 茉莉菜はもはや肌で気持ちが取り戻せないことを悟り、一方で歩も無感情のキスの味を知る。単なる乾いた唇の接触は、気持ちもなく身体だけを重ねるだけの目的でするキスの方がまだ味気があった。
 ただ抱きつくだけに落ち着き、動かなくなった茉莉菜の背をそっと抱きよせる。
 歩はライブで、茉莉菜は一日撮影をこなしていて身体は疲れている。けれど、ここでベッドを使って眠りをとるほどの神経は持ち合わせておらず、二人はソファで身体を寄せ合って一夜を過ごした。
 早朝ロケだという茉莉菜を六時にマネージャが迎えに来て、地下駐車場でその車を見送ると、歩も来客者用駐車場に停めてある自分の車に乗り込んだ。
「さむ……」
 季節は朝の冷え込みを感じるころになった。
 ナンバーで車体を識別するという地下駐車場は、そのとおり帰りは何もせずともゲートが上がって、黒のSUVが地上に姿を現す。
 空はまだ夜明けを待っている段階だったが、すでに薄明るい。
 歩は帰ったら久しぶりに屋上に上がろうと思った。
 冬が近い。
 初めてさゆりを抱いた朝に見た、東京の夜明けがそこにある。
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一読者としてはとっても嬉しいこの更新ペース、でも僭越ながら一友人のつもりの気持ちとしては鼻血が出ないかちょと心配な今日この頃…(笑)
どうぞご自愛くださいますよう。。

たぶんきっとABでボーカルと聞いて好感度がちょっと下がっていた歩くんでしたが(笑)、誠実でイイオトコじゃないですか。。それに茉莉菜ちゃん、、わかる、その気持ちよくわかるよ~><。うう、辛いだろうに。。みんないい子で困っちゃう。

エジワスメンバーとってもいいですね~。一太郎くん、潔くてかっこいいなあ♥ 彼らが一緒にいるシーンがとても好きです。

ではでは。
  • まりこ さん |
  • 2014/11/09 (18:56) |
  • Edit |
  • 返信
Re:No Title
>まりこさん
ご心配ありがとうございます!うん、たぶんいまだかつてないハイペースですが鼻血は出そうになってません。てことは、ノッてるのかも!とりあえず、仕事だと思ってこなしてます。
よ、よかった、好感度持ち直しましたか、ヒーロー…。茉莉菜もね…ホントにね…なんかね…。ああ、ラブコメが書きたいです、今、とても。もちろん両立なんて器用なことできませんが。。。
そんな中でエジワスメンバーは癒しですよほんと。それぞれのキャラが立つように立つようにと最初頑張ってたらなんか立ちすぎた…?一太郎、私のイチオシです。ともすればサードポジションになってしまいがちなんで作者特権でぐいぐい出させてます^m^
いつもありがとうございます~!
  • from 佐久間マリ |
  • 2014/11/10 (09:58)
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