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佐久間マリのオリジナル小説ブログ 18才未満の方の閲覧はご遠慮ください

   
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たぶん、きっと、ずっと、僕は17
17.

  新幹線のグリーン車はがらがらだった。そのせいで一太郎のヘッドフォンから漏れる音楽がよく聞こえた。前方に、左右に点々と数えられるほどの客がいるだけで後ろには全く誰もいない。並びで取った指定券だったが、歩と一太郎は通路を挟んで、二人分の座席をそれぞれ一人で使う。
「確かに近くなったけどさ。片道二時間、ちょっと会いに行くって距離じゃないよね」
「そう? 寝るにはちょうどいいよ」
「愛だねえ」
 一太郎はますます座席から背中をずり下げて言った。
 練習を早めに切り上げ、二人は高校の同窓会に向かっている。すでに始まっている時間だが、この分ならなんとか間に合いそうだ。さゆりは委員なので、学校において催される午後からの閉校セレモニーにも出席しなければならなかったらしいが、ほとんどの参加者は夕方のパーティーからだと先日会ったときに言っていた。
「でも、昔からきりやんはそんな男だったよ、忘れてたけど」
「そんなってどんな?」
「たとえば、女子にモテたくてバンド始めたのに、勝手にしのしの誘ってメンバーに女子を入れるとか」
「まだそれ言う?」
 歩が苦笑する。
 もともとは、中学の文化祭で募集されていた個人ステージに応募しようと一太郎が言い出したのが始まりだった。その時は、手段は何であれ出場することが目的だったので、出し物がバンド演奏に決まったのはもはや消去法だった。それこそ、一つ違えば漫才やコントになっていたかもしれないくらいの気軽さでエッジワースは結成されたのだが、言い出しっぺの一太郎の許可も得ず、むしろ本末転倒なさゆりの加入は、この十年何度謝ったかわからない。
「雅和の家がしのしのの家に一番近いのに、どんな時もきりやんは自分が送っていくって譲らないとか」
「それは彼氏として当然じゃない?」
「それだけじゃなくて普段からしのしのと俺らのうち誰かが二人きりになるのを全力で阻止するとか、最初一番エジワスに乗り気じゃなかったきりやんが、しのしのがカッコイー!って言ったもんだから俄然やる気出しちゃったり、モテモテのイケメン駆兄ちゃんには絶対しのしのを会わせなかったり。……とか」
 最後の「とか」がなにやら含みを持っていたので、視線だけで続きを促すと一太郎はわざとそこだけを切り取ったように、
「別れたら別れたで今度は、一切しのしのの話題に触れるな、その名前も出すなオーラをがんがんに出したり、そのせいで超メンバーに気遣わせたり。特に友樹に」
 歩は全て思い当たる節があった。友樹にいたっては本人の性格ゆえのような気もしたが。
「……どこの自己チューヤロだよ」
「自己中ってか、しの中でしょ」
「なにそれ」
「しのしの中心」
 歩は照れたように笑い、しかし、すぐに真面目な顔に戻って、
「友樹……」
 今日の同窓会に、メンバーの中ではもっとも知り合いが多いだろうはずの友樹は来ていない。
それは他に外せない用があったからなのだが、時間が許せば同窓会に顔を出したいと言った歩に、難色を示したのはあろうことか友樹だった。大して学校生活に思い入れのない歩がわざわざ忙しい時間を割いてまで行く必要があるのかとか、行ったところでどうせ好奇の目にさらされて不愉快に決まっているとか、普段必要以上に義理堅い友樹には珍しい意見だった。
 歩も一人ではさすがに行き難く、見かねた一太郎が同行を買って出てくれたのだが、最後まで友樹はあまり賛成の様子ではなかった。
 さゆりとの再会をあまり快く思っていないのだろうか。先日、ものの二時間のためにさゆりに会いにN県へトンボ帰りした時も、手を叩いて賞賛する雅和の隣で、何とも言えず渋い顔をしていたことを思い出す。五年前、一方的に別れを告げたさゆりを友樹は歩の代わりに恨んでくれているのかもしれない。実際、さゆりに振られ、上京したばかりの頃、歩は自暴自棄になっていて友樹にはずいぶん迷惑をかけた。
「ちょっと意外だった。どっちかっていうとお前の方が反対すると思ってたから」
「んー……俺はね、所詮他人の意見なんて蚊帳の外だろって考えだから、何か思ってても言わないだけ」
「なんか、冷たくね?」
 歩が言うと、心外だと言わんばかりの顔をする。一太郎のなりの最上級の友情の形らしい。
「友樹はねえ、別に反対してるってわけじゃないと思う」
「どういうこと?」
 一太郎は口をつぐむように肩をすくめ、
「ま、自分の思うようにしなよ。どうせしたいようにする『しの中』なんだから、きりやんは。喜多茉莉菜とも無事別れられたことだしね」
 そうなのだった。茉莉菜からようやく連絡が来たかと思えば、それは改めて別れ話をするためのスケジュールを知らせるものではなく、それらをすっ飛ばした歩への返事だった。
『別れるって話、わかったよ! 今までホントにありがとう。楽しかったし、幸せだった』
 相変わらずかわいらしい絵文字が末尾についていて、それは歩の耳に茉莉菜の声でありありと再生された。
 しかし、文字のやりとりだけで終わらせてしまうのは気が引けて、もう一度会ってきちんと話したいと願い出たが、会うと辛さが増すので逆にこれで勘弁してほしいとの事だった。茉莉菜がそれでいいというのだから仕方がない。
「ん……。でもまだ茉莉菜のことが完全にすっきりしたわけじゃないし」
「まあ人の噂も七十五日だし、そのうち彼女もまた新しい仕事で誰かと熱愛スクープされて、きりやんとの事は世間的にも過去のものになるでしょ。バッシングも落ち着いてきたみたいだし」
「うん、まあ。でもまだ盾になってやんなきゃならないことはあるかもしれないし」
「でもその辺はしのしのに説明しちゃえばいいんじゃない? もうそれはずるくもカッコ悪くもないと思うよ」
「うーん……」
「なんだか煮え切らない返事だけど、しのしの、彼氏いないんでしょ? チャンスじゃん。何を気にしてるの? 芸能人と一般人とかそういうこと?」
「いや、違う」
「じゃあ何さ」
 新幹線はひっきりなしにトンネルへの出入りを繰り返している。外の明暗はもちろん、その度に振動音も変わって、歩の人より優れた聴覚に負担をかける。
「俺、振られてるじゃん?」
 うんと言いながら、一太郎はペットボトルのコーラを開けた。プスっと炭酸の抜ける音がする。
「一回、嫌われてるわけだからさ。また俺を好きになってくれるかっていうとわかんないし、難しいだろうなーって。だから……今のままでもいいかなと思うんだよ」
 窓の外の景色は、目に留まらない速さで通り過ぎていく。

*

「しのしの!」
「きゃー、イチくん! 久しぶりー!」
 会場はN駅前のホテルで、到着してしばらくロビーで待っていると、さゆりが奥のエレベーターホールから現れた。
 飾り気のない白のシャツに、同じくシンプルな黒のスカートスーツだ。胸には『三組 四宮』とご丁寧に名札までつけていて、まるで就職活動かあるいはお見合いパーティーのようだが、後者ならばもう少し華やさが必要だろう。
 一方、東京から来た二人は足元がブーツだったり、インナーがカットソーだったりとカジュアルながらもジャケットを着用している。スタイリストが選んだものなので、それぞれによく似合う服のチョイスで、完璧なスタイリングだった。歩と一太郎は背格好も同じくらいで、甘い顔かたちが似ていなくもないので、雑誌などの表紙を二人で飾る仕事もある。そのせいもあってか、サングラスやマスクで顔を隠していても只者ならぬ雰囲気を醸し出し、周囲の視線をひそやかに集めていた。
「今日は遠いところありがとうね。歩もほんとありがとう。花井さんも大喜びで、気合い入っとるちゃ」
「何のための気合だよ?」
 歩は先日の彼女を思い出して鼻で笑う。
「参加しとるみんなには最初の挨拶で、後ほど特別ゲストが登場しますってもうゆうとるの。その時点で、みんな、誰が来るのかはだいたい想像ついとるやろうけどね。あのね、何も特別な用意はしとらんけど構わんけ?」
「うん、逆に特別扱いされない方がいいし」
 一太郎が頷くと、さゆりは早速二人を先導し、
「じゃ、お願いします。会場は三階ちゃ」
「なんか、仕事の出番みたいだね」
「さゆり、これ何時に終わんの?」
「一応、七時までってことになっとる」
「終わったらメシとか行ける?」
「うーん。打ち上げってみんなゆうとったが、ちょっと無理かも」
 エレベーターが鈍いベル音を鳴らして、目的の階に到着したことを知らせる。
 ドアが開くと、会場の部屋の前で早川とホテルの担当者が待っていた。歩たちの姿を認めて、挨拶を一通り交わし、入場に際しての簡単な説明を受ける。
「思ったよりホンカクテキじゃん」
「うん、場所が場所やからね。うちら、他の学年より参加人数が圧倒的に多いんよ。やっぱりみんなひそかに歩たちが来るんじゃないかってそれ期待して、だから多いんやろうって。二人が来てくれて、ほんまよかったちゃ」
 ホテルの担当者がインカムで中に連絡すると、防音扉の向こうから、ひときわ大きなマイク音がした。司会進行役を務めるのは花井と六組の同窓会委員の男子だ。それはなかなか様になっている。
『さて、皆様お待たせしました! 特別ゲストの登場です!』
 その声に紛れるように、「しのしの」と一太郎がさゆりを呼んだ。そして、「大丈夫?」と聞いたのに、さゆりは、うん、と笑って頷く。
 一太郎がわざわざそう聞いた意味が歩はよくわからず、ただ問いただす前に内から扉が開いた。
『我らが南校の誇り! エッジワース、桐谷君と山田君です!』
 黒服の担当者のどうぞという無言の合図に二人は中に歩みを進めた。スポットライトこそないが、悲鳴にも似た歓声と共に、かつての同級生はこぞって二人にスマートフォンを向けている。あの頃、素行の悪い歩らを目の敵にしていた教師たちまでもがそうなのだから、その姿はさゆりにはいささか滑稽だった。
 立食形式ということもあって、二人の周りにはあっという間に人だかりができた。
 さゆりと早川は入口付近で遠巻きにそれらを見ながら、ひとまず無事にゲストを迎えられたことに胸を撫で下ろす。
「四宮さん、ありがとね。連絡取りにくいところ、尽力してくれたんやろ?」
「いや、そういうわけでもないちゃ……」
「それにしてもすごい人気だが。もっともやけどな」
「現金なもんやちゃね。高校時代はみんな彼らのことどんだけ冷たい目で見とったか」
 ひねくれた口調で言ったさゆりに、
「うん、実は俺も四宮さんのことも不良やって思っとったよ。ちょっとぶっ飛んだっていうか。でも、全然イメージちがったわ」
「ほんまけ? ……そしたら、うちもちょっと名誉挽回できたかな」
 照れたように肩をすくめ、二人で笑い合った。
「あいつらどれくらいいれるって?」
「最終の新幹線で東京帰るゆうとったが」
「ったく、全然飲めないし食えないよね、俺ら」
「仕方ないちゃ。それは打ち上げまでお預けやちゃね」
 委員らしく、会場の様子に気を配りながら時間をやりすごしていると、
「なんか、騒がしくないけ?」
 早川がそう言って入口の方を見た。確かに扉は小さく開いたり閉まったりを繰返し、不自然だ。
「ほんとや。何やろ? うち、ちょっと見てくるちゃ」
 同時に、会場の中心にいた一太郎もそれに気づいたのか、隣にいた歩に顔を寄せた。
「きりやん、やばいかも」
「え?」
 押し寄せてくる無遠慮なサインの催促と写真撮影をさばいていた歩が顔を上げた時だった。
 さゆりが宴会場のドアを引くと、外には十数人が群れを作っていて、頭上に何台ものスマートフォンが掲げている。どこで嗅ぎつけたのか間違いなくエッジワースのファンだろう。
 相手も中から扉が突然開いたことに驚いたのか、つっかえを無くした最前列のファンが後ろからも押され、前につんのめった。それに乗じてせり出してくるファンが扉を押し、さゆりはまたそれに押され、後ろにしりもちをつく。
「わっ! きゃっ!」
「四宮さん! 大丈夫!?」
「さゆ……!」
 それを目にし、思わずさゆりの元へ駆け出しそうになった歩の肩を一太郎がつかみ、足止めを食らう。
「きりやんが行ったら余計ややこしくなるから」
 早くも騒ぎを聞きつけたホテルスタッフが駆けつけ、その迅速な対応のおかげで大きなトラブルにはならなかった。さゆりは早川に引き起こされて、赤い顔で苦笑いしていた。
 その後は大きな混乱もなく、歩と一太郎の即席のサイン、握手、撮影会と化したものの盛況のうちに会は終了した。
 打ち上げは、ホテル側が好意でバーのVIPルームを用意しれくれ、もちろん、歩と一太郎がいるからだが、妙なメンバーでテーブルを囲むことになった。
 歩の横は我先にと花井が陣取る。趣味の悪い派手な柄のワンピースを着て、口調は既に酔っているのかひどく甘ったるい。
 もっとも歩の意識はさゆりにある。しかし、さゆりは一番遠い端っこに小さくなって座り、全員の注文を取りまとめる以外は話しもせず、控えめに笑って、話題に相槌だけを打っていた。
 やがて、さゆりが誰にことわることもなく静かに席に立つ。それを見逃さず、歩はまるで電話が鳴っているふうを装って同じく席を離れた。
「桐谷くぅん、早く戻ってきてねー」
 花井の投げかけた一言にもはや鳥肌がたつのを抑えられない。何のために歩がこんな時間に耐えているのかというと偏にさゆりのためだ。
 化粧室から出てきたさゆりは待ち構えんばかりの歩を見て、
「サインとか写真とか、大変やったね。お疲れ様」
 と笑った。
「さっき、大丈夫だった?」
「え? なんが?」
「野次馬に押されて尻餅ついてただろ? 怪我とかは?」
「あんなん全然平気ちゃよ。カーペットやったし、痛くもかゆくも。ってか、それより恥ずかしかったちゃ」
 さゆりが肩をすくめる。
「ごめんな」
「歩のせいじゃないちゃ。こっちこそもっとちゃんと警戒しとかんといかんかったね。ごめんね。それより、疲れとるのに打ち上げにまで参加させられて大丈夫?」
 その時、一人の女性客が店から出てきた。化粧室の手前で立ち話をする二人を見て、そのうちの男性が歩だと気づいた様子で、表情に驚きと興奮を露わにしてすれ違う。
「こんなとこに二人でおったら怪しまれるちゃね。うち、先に戻るわ。歩は? 歩もトイレけ?」
「あ……いや、ちょっと……」
「そう? じゃあね」
 その後、もちろん話す機会はないままに最終新幹線の時間が迫る。バーの店員が恭しく部屋に来たかと思うと、
「桐谷様、山田様。お車のご用意ができましたのでどうぞ」
「ありがとうございます。じゃ、きりやん失礼しようか。遅れると困るしね」
「うん」
「ええー、もう帰るのけー?」
 花井が駄々をこえているが、もはや歩の耳には届かない。もっとももとより相手にもされていなかったが。
 部屋を出るとき、さゆりとは目が合っただけだた。個人的に手を振ることも控えているのだろう。特別な何かはなく、平等な笑顔に見送られただけだった。
「なんか……予定してた感じじゃない展開になったね」
「うん……」
「トイレに立ったとき、何か話せた?」
 歩が首を振ると、
「そっかー」
「つき合わせてごめんな」
「いや、別に俺はいいけどさ」
 互いに、不完全燃焼だった。
 帰りの新幹線も行き同様、空席ばかりだった。
 大胆に二席を使って、一太郎は早速眠りに入っている。
 歩は、早速さゆりにメッセージを送る。
『今日はありがとう。委員、お疲れ様』
 もちろん、あの場で携帯をチェックするようなことはしないだろう。
 想像どおり、しばらく待っても既読はつかなかった。もっとも、どのみちさゆりからの返信は期待できないかもしれない。さゆりの中で歩は彼女を持つ身だからだ。
 不誠実な男にはなりたくない。
 歩はタッチスクリーンをフリックすると、一瞬の躊躇を経て、送信ボタンをタップした。
『茉莉菜と別れた』
 さっき一瞬だけでも話せたときに言うべきだったか。しかしそれも、十分にいきなりで唐突だろう。どちらにしても、さゆりにはいきなりで唐突で、かつ無関係かもしれなかった。
 さゆりが何時まであの場所で飲んでいたのかはわからない。
 朝になっても返事はなかった。

*

「発端となったツイートを見つけたわ。一般人、たぶん同級生ね。ホテルの従業員ならクレームもつけれるけど」
 歩の部屋のダイニングチェアに、乱暴に自分の鞄を置きながら槙田が言った。
 同窓会から一夜明け、部屋の窓からはすがすがしい秋晴れの空が望める。
 再来週から始まるツアーに向けて、今日から本格的なリハーサルが始まる。楽曲の細かい箇所に至るまで訂正と変更をかけていくのでしばらくはスタジオに缶詰の日々だ。
「いつも言ってるでしょ。あんたたちは一歩外に出れば指名手配中って。会場のホテルはAJAって言ってたし、一流だから大丈夫かと思ったんだけど」
 槙田は特に怒っているわけではなさそうだったが、常から言うことが全て小言じみているので、メンバーはもはや聞き流す術を持ち合わせている。
「ホテルの対応は完璧だったよ」
「でも私からも手を回しておくべきだったわ。言っても相手は素人主催のパーティだものね。ともかく怪我人とか出なくてよかったわ。もし事故でもあったらツアーどころじゃないわよ」
 なんとなくそれがさゆりを非難しているに聞こえ、ただ、否定するほど直接的でもなかったので、歩は仕方なくそばにあったギターを手に取った。コーヒーを飲むのと同じ気軽さで適当に音を鳴らす。
 槙田は腕を組み、しばらくそんな歩を見ていたが、ややあって小さくため息をつくと、
「もうあちらに拘るのはやめなさい」
「……あちら?」
 歩がちらりと視線を上げる。
「喜多茉莉菜と別れたのもそれが原因だったのね。……もう彼女のことは忘れたと思ってたわ。まだ、好きなの?」
 返事はギターの音に任せ、歩はひたすら黙っていた。
 そうなのだ。一太郎の言うとおり、結局誰に何を言われ、反対されようとも、歩の気持ちも答えも変わらない。覚悟を決めているその横で、槙田は椅子を引き、そこへ座るとなにかに悩むように眉間を押さえた。
「あんたに謝らなくちゃいけないことがある」
「俺に?」
「正直、こんな機会に言いたくなかったけど。お墓まで持って行く覚悟だったのよ、私も谷川さんも」
「谷川さんも? ってことは仕事の事? 何?」
 槙田はいつになく真剣な顔で歩を見た。
「五年前、私が彼女に頼んだの。歩と別れて欲しいって」
 歩の指が止まり、音が止む。部屋は静寂に包まれた。
 詳しく聞かずとも槙田がどういうことを詫びているのかわかった。
「でも今回、未だにあんたがさゆりちゃんを好きだっていう気持ちを知って、今朝、連絡を取ったの。ファンの騒動の事情も聞きたかったし」
「さゆりに……連絡? 何を? 何て?」
「今なら交際を認めてあげられるって」
 エッジワースは成功し、むしろそれがいい意味でも話題になるくらいまで立派に成長した。事務所として、せっかくの歩の気持ちなのだから尊重しようと出した結論だという。
 歩はいろんなことが信じられなかった。
 想い一つにすらいちいち事務所の許可がいるのかということから、槙田がさゆりと連絡を取ったこと、そして、何より五年前の別れの真相。
 つまりはあの時、離れていったと思っていたはずのさゆりの気持ちが実際はどうであったのか。失望と希望、そのはざまにさゆりの笑顔が交錯する。しかし、次の槙田の言葉でそれらはまた混乱を極めた。
「でも彼女、今回は自分から断ってきたのよ。もう、歩とは関係ありませんって」
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No Title
おお、こんなに早く歩に真相が伝わるとは思いませんでした!
さゆりの真意はわからないけれど、こりゃ歩はますます暫くはさゆりから離れられませんね(気持ち的に)
5年前は槙田さんに頼まれたからだった、そして今彼氏はいない、なのになぜ?

ここで簡単にいかないのがさくまりさんのお話の醍醐味ですよね!
また最初から読みかえしてしまいそう。
いつも私に萌えをありがとうございますー!
  • 花* さん |
  • 2014/11/19 (21:09) |
  • Edit |
  • 返信
Re:No Title
>花*様
コメントありがとうございます。
今回はできるだけ(作者的に都合のいい)すれ違いはやめようと思って…^^;私自身そういう展開に少々嫌気が…。でもそれなしにストーリーに起伏をつけるのは難しいですね…。さゆりの気持ちに納得して頂けるかどうか…。少しでも面白く楽しんで頂けるお話になるように頑張ります!こちらこそいつもありがとうございますToT
  • from 佐久間マリ |
  • 2014/11/20 (13:26)
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