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佐久間マリのオリジナル小説ブログ 18才未満の方の閲覧はご遠慮ください

   
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エブリデイ キス!(5)
(5)

 ふわふわした気分で家に帰りついた。高くなった日差しが眩しい。
 帰宅した自分の部屋がなんとなく久しぶりに映る。たった一晩帰らなかっただけなのに、しばらく帰っていなかった気分になるのは宗久の家で過ごした時間が濃厚だったからかな。知らない人の、しかも初めてお邪魔したおうちだったけど、居心地は全然悪くなくて、むしろ好ましい空間だった。私ってば必要以上にくつろいでたかも。早くもまたお邪魔したいなんて厚かましく思ってるし。
 別れ際に約束したので、無事家に帰った旨をメールで報告する。無事も何も、真っ昼間なんだからそんな危険があるわけないのに心配らしい。男の人っていちいち大変だなあ。
『ただいま。今帰りました』
『おかえり。送れなくてごめん。ところで、さっき聞くの忘れたけど身体、大丈夫?』
 まるで“初めて”だった彼女を気遣うような発言に恐縮しちゃう。残念ながら私は処女ではないのでそこまでのご心配は無用です。ごめんなさい。でも正直なところ、まだ下半身に違和感が残ってるし、身体のあちこち、大きな声では言えないトコロまでも痛む気がする。前の彼氏と別れて二年ずっとご無沙汰だったし、宗久ってば結構激しかったからそれも当然かも。
 だからと言って、そんなハシタナイ申告できるわけもなく、さらっと『何もないよ。ちょっと眠いけど』と返した。こういう時、素直に言うのとどっちがいいのかな。
『したら、今日はゆっくり寝といて。明日は寝かせないし』 
 スマホを見ながら「えっ」と思わず声が出る。
 明日もスルの? ……まあ、スルか。スルよね。っていうか、寝かせないしとかリアルでいう人初めて見た。どう返せばいいか迷っていると、
『嘘です。ごめんなさい』
 と先にメッセージが届いた。私が既読つけて返信しないから怒ってると気分を害したと思ったのかな。別に怒ってないし、嘘じゃなくてもいいのに。
 くたびれた昨日の服を脱いで、部屋着に着替える。ほっと一息つきながら、ベッドを背もたれにして床に座り、落ち着いて考える。
 まさか宗久と付き合うことになったなんてまだ信じられない。なんせ突然で、急なことだもん。
 ずっと、気になってたって本当なのかな。本当にそうなんだったらすごく嬉しいけど。
 誰にでも言ってたりしないよね。あんなにかっこいいんだもの、すごくモテるだろうし、百パーセント宗久を信じることはまだできない。悪いけど。
 週末、特に予定も入れてなかったので、私は部屋の掃除をすることにした。近いうちに宗久を招く機会があるかもしれないから念入りに。寝具もラグもいっきにお洗濯。私の部屋はまあまあ新しいワンルームで、コンパクトに物が納まってはいるけど、整然とした感じが今はなんだか味気なく感じる。取ってつけたように飾った小物とか、オシャレさが全くなくてなんだか恥ずかしい。もちろん、昨日まではこれで十分快適に、気分よく暮らしてたんだけど、宗久の部屋を見たからかもう少し遊びがあってもいいような気がしてきた。やだ、早速感化されてるじゃん。
 宗久の部屋は日当たりがよくて、居心地よかったなあなんて思い出しながら、ケータイをチェックする。帰ってきてもう何回目っていうくらいチェックしてる。メールはさっき帰宅時のやりとりで終わってる。ちょっと寂しく思いながらも仕方ない。だって彼は仕事中なんだし。もちろん私からも自重。別に、返事が欲しいわけじゃないけど、ピコンピコン鳴らすだけでもウザがられると思うから。
 夜、冷蔵庫の中のあり物で適当にご飯を作って食べて、ゆっくりお風呂に入って、だらだらテレビを見ながら、やっぱりケータイとにらめっこ。仕事終わったのかな、明日は会えるかな、メールしてみてもいいかな、なんて考えていたら、電話が鳴って驚いた。
 画面に宗久の名前を見るだけで、どきどきしちゃって困るよ。
『何してた?』
『テレビ見てた。仕事、お疲れ様。終わったの?』
『ううん。今、気分転換に晩飯買いに出ただけ』
『まだ終わらないの?』 
『まだまだ終わんない。もーやだ。いつ終わるかわかんねー』
『そうなの。大変だね……』 
 すでに時刻は十時半を過ぎている。明日は無理かもしれない。
『もー、死にそうだよ。でも絶対朝までには終わらせるし。で、明日どうする?』
『えっ、そんな無理しないで。明日はもういいから。今夜、徹夜するんなら明日はゆっくり休んで』
『大丈夫。こんなの日常茶飯事だし』 
『でも……、そんな無理してほしくないから』
『俺が会いたいの。無理してでも会いたい。ごめん、大げさに言った。俺が弱音吐いちゃったから、桃子に気を遣わせちゃったよな。悪い、仕事のことは気にしないで』
 彼はもう一度、ごめん、と言った。気にしないわけない。負担になりたくないし。
『私も会いたいし、そう言ってくれるのは嬉しいけど、無理はしてほしくないから』
『うん、約束する。無理はしない』
 とりあえず明日は午後から会うことになった。会話が一旦途切れて『はあー、寒ぃ。まじ、寒い。やべー寒さだ』と彼の吐く息が耳に聞こえる。
 私は、突如、会いたくなる。宗久に会いたいな。明日、会えるかもしれないのに、今会いたい。そんなわがまま言えないけど。昨日の今日でそんな重い発言、引かれちゃうに決まってる。
『どこ行く? どこか行きたいところある?』
 宗久が改めて聞いてきた。
『今日徹夜だったら、出かけるのしんどくない? 家でゆっくりするのでもいいよ?』
 昨日の夜だってろくに寝てないんだし。実を言えば、私は今すぐにも瞼が落ちそうなくらい眠い。
『大丈夫だって。心配しすぎ。そりゃもちろんウチに来てくれてもいいけど、それだと俺、間違いなく襲っちゃうよ? それを危惧して外で会おうって提案してるんだけど』
 そう言われて、思わず絶句しちゃった。それでもいいけど、それでもいいから家にしようなんて恥ずかしくって言えないし。
『ホラ、最初にがっついちゃったから自重しようかと思って』
 ええ、そんな自重いらないのに。 
 なのに、『言ったよ。その言葉よーく聞いておくから』なんて言っちゃったよ。私のばか。でも、それって大事にしてくれてるって思っていいのかな。身体だけじゃないってことだよね。
 受話口の向こうから、私に宛てたわけではなさそうなありがとうという宗久の声に続いて、ありがとうございますと聞こえてきた。
『今、コンビニなの?』
『うん、弁当買った』
 こんな遅くまで仕事で、さらにコンビニのお弁当だなんて身体が心配になる。ご飯作ってあげたいななんて思ったとき、タイミングよく尋ねられた。
『桃子は普段自炊とかすんの? 料理得意な方?』
『得意ってほどじゃないよ。普通。でも家にいるときはご飯は作ってる』
『まじで? 自炊してるコっていーよな。今度俺にも食わせてよ』
『たいしたものできないけど、いつでも作るよ』
 宗久は、楽しみだ、と嬉しそうに言ってくれた。そんなこと言われたら、何作ろうか今から考えちゃうよ。
 電話を切って一人になった部屋のベランダの窓を開けてみた。息が真っ白で、宗久が言っていたとおり本当に寒い。冴え冴えと、冷気が頬を刺す。でもその分、月も星も輝くように綺麗。
「宗久が頑張って仕事終わらせてくれますように」
 ガラじゃないけど思わずお月様にお願いしちゃった。早く会いたい。 

  
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