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佐久間マリのオリジナル小説ブログ 18才未満の方の閲覧はご遠慮ください

   
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エブリデイ キス!(10)
(10)

「栗岡さん! おはよっ」
 次の日出社するなり、まだコートと鞄を持った状態で角川さんが私のデスクへ来た。
「おはようございます。昨日は突然失礼してすみませんでした」
「いやいや、それより……」
「神山さんが置いて行かれた分でお支払足りました?」
「あ? ああ、昨日はもう俺と吉村さんとで払っておいたから君らはもういいよ。そんなことより……神山さんとどうなった!?」
 最後の部分は周囲を見回してから、ぐっと潜めた声で言った。
「まさか、つきあうことになったとか?」
「まさかって、つきあったらダメなんですか」
「いや、ダメじゃないよ。ダメじゃないけど……あの人は遊んでるぞ、絶対。同じ男だからわかるんだ。そういう匂いがする。顔はもちろんいいけど、雰囲気とか、仕草とか、なんかこう、言葉に出来ないけどモテるオーラがある」
 男じゃなくてもそれくらいわかります。私は途端に重い気分になって、返事もせずに黙りこんだ。
 だよね。遊んでるよね。っていうかモテるよね。あの顔だし。それに言動が全部スマートっていうか、慣れてるっていうか、女の子好みというか。手も早いしね。
 私ってば、宗久と気が合う、フィーリングが合うなんて浮かれてたけど、もしかして経験値の多い彼が合わせてくれてるだけなのかもしれない。
「で、どうなったの? つき合うの?」
 角川さんが詰め寄るように聞いてきた。
「一応……」
「そうかー。やっぱり口説かれちゃったのかー。吉村さんとも言ってたんだよ。神山さんに口説かれてオチないわけないよな、って」
 角川さんはあからさまに肩を落とす。どうしてそんなショックそうな顔するんですか。そんなにダメなの? 危険な男なの? 遊び人なの? 不安になるじゃない。
「まあ、吉村さん情報によると今は彼女いないはずだって言ってたし。一応取引先だからな、非常識なことはされないだろけど、もしひどいことされたら言って」
「……角川さんに? わざわざ言いませんよ」
「いや、正確には吉村さんがな、栗岡さんにそう言っといてってさ。俺が始末つけてやるからっていつでも相談してくれって」
 それはちょっと心強いかな。もっとも遊ばれてフラれたとしても、本当に言ったりしないけどね。
「それがさ、吉村さんも密かに栗岡さんのこと狙ってたらしいぞ。今からでも吉村さんはどうだ? あの人、おもしろくていい人だぞ」
「は? ないですよ!」
 意外な事実に、私の顔は不自然に歪んでたと思う。
 なんなの、私、モテ期なの? 今まで社外の人と仕事をして、そんなふうに言われたり誘われたりしたこと一度もないんですけど。
「でもよかったな。やっと彼氏できて」
 やっとは余計です。確かに間違ってはないけど。やっとできた彼氏だけど。
「ありがとうございます。でもそれセクハラですからね」
「はいはい、ごめんなさいすみません」
 角川さんは笑いながらコーヒーを片手に、私の向かいの席に座る。
 私も仕事を再開するが、パソコンのキーをいくつか叩いたところでその手が止まった。
 さっき角川さんが言った『今は彼女いないはず』って言葉が引っかかってる。
 わかってる。わかってるよ。彼女なんていて当たり前だし、それこそ過去に何人いるかわからない。第一、過去のことを言うなんてそんなの一番どうしようもなくて、不毛な悩みだってわかってる。それでもなんかショック。ショックなものはショックなの。
 はあ。どうしたらこのもやもやした心の中は晴れるのかな。
 水曜日の夜に予定されていた合コンは、結局女子会になった。
 主催のタモは高校時代の友達で、正直に彼氏ができたから行けなくなったと言うと、彼女は合コン自体はキャンセルしたけど一緒にご飯を食べようと言ってきた。
「なんで急に彼氏ができるのー? 二週間前に会った時、そんなこと全然言ってなかったじゃない」
「私自身、突然でちょっとびっくりなんだって」
 宗久とのなれそめを話して聞かせる。なれそめって言っても、一緒に仕事をし始めた頃のことから話をしないとすぐ終わっちゃう。いや、仕事の話を入れてもすぐ終わってしまった。
「久しぶりに恋してるって感じがして毎日が楽しいよ。切なくなったりもするけど」
「なんか言ってることが高校生レベルなんだけど、枯れてるよりいいよ。しかしどこに落ちてるかわからないものだねえ、恋って」
「ホント。彼氏欲しい欲しいって言ってる時は全然できなかったのに」
「普通に好きで身体も合って、って実際そういう人ってなかなかいないんだよ。燃え上がるような恋はもういらないのよ、疲れるだけだし」
 タモは顔もかわいいし、話も上手なので、合コンをしても二回に一回はお目当ての人とそれなりの関係になる。けれど、なかなか長く付き合える人には巡り会えないらしい。
「そういう仕事の人ってすごく不規則なんじゃないの?」
「そうなの。土日もないみたいで、会社に住んでるようなものって言ってた。毎日大変そう」
「まあ、暇な彼氏に束縛されて自由がないよりましじゃない? だったら内緒でコンパも行けるじゃん、これからも誘うね」
「やめてよー。今の所、うまくいってるんだから」
「結婚考えてもいいくらいの人?」
 三十歳が射程圏内に入ってくると、恋愛の話題に結婚が付随してくるようになった。合言葉のような「彼氏が欲しい」も昔みたいなただの「彼氏」じゃなくなくて「結婚を考えてもいい人」。特にタモは仕事が嫌で早く結婚して退職したいらしいから、ある意味ハードルを下げてるんだけど、その分違うところのハードルが上がってるからなかなか難しい。いや正直なところ、顔がいいだけの『彼氏』を探す方が簡単かもしれない。
「まだ一週間も経ってないんだよ。続くかもわかんないし。彼、すごくモテそうだし。向こうだって、私のこと特別に思ってないだろうし。ちょうど彼女がいなかったらしいから、適当な時期に適当なところで見つけて、まあ暇だしって感じじゃない?」
 ちょっと一緒に仕事したくらいで、気になって、つき合い始めるとか自分のことながらドラマなさすぎだ。でも本当に運命的な出会いでもなければ大恋愛の末に結ばれたわけでもないし、何かで強く結びついているとかいうわけでもない。
「そんな間に合わせなの?」
 タモはウケている。
「遊ばれてもダメージ最小限で済むようにのめり込まないようにね。万が一のために保険でもかけとけば?」
 なんの営業なのよと私が笑うと、タモがにやりとした。
「桃子、今キてるよお」
「何が?」
「モテ期。いやあ本当、人生ってやっぱりそう時期があるのかもって思うわ。それがね、実は今日するはずだったコンパは桃子のためにセッティングされたやつだったの。私のフェイスブックの写真見て、桃子のこといいって言ってきた友達がいてさ。正しくは友達の友達なんだけど。だから今日は、その人と桃子をくっつけようとしてたんだよね」
 何それ、本当にモテ期来てるかも!
「なんで今なの。私、今までずーっとフリーだったのに」
「だよねー。でもさ、タッチの差だよね。これが先週だったら、桃子はその人とつきあってたかもしんないんだよ。人生ってそんなものなのかもね。運命のいたずらって言うの? ま、神様が今の彼を先に桃子に出会わせてくれたんだから、そのデザイナーくんが運命の相手って思うしかないよ。その友達の友達、いいところにお勤めでなかなかイケメンだから正直勿体無いとは思うけど」
 そんな風にタモが言うから無性にもったないことをしたような気分になる私ってひどい女なんだろうか。
 でもやっぱり、そのタモの友達の友達よりも、宗久に先に出会えてよかったって思ったよ。もちろん、吉村さんよりも。彼こそ本気かどうか知らないけど。
 それにしても、タモの話を聞いてホッとした。
 とにもかくにも、宗久に嘘をついて隠れて今日の合コンに行ったりしなくてよかったー。


  
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