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佐久間マリのオリジナル小説ブログ 18才未満の方の閲覧はご遠慮ください

   
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エブリデイ キス!(15)
(15)

「おかえり」
 終電より何本か早い電車だったけど時刻はすでに日付が変わってる。
 宗久は駅の改札口で待っていた。鼻の頭を少し赤くして、奇しくもさっき私が似合うだろうと予想したニット帽を被っていた。やっぱり彼っぽくてよく似合っている。
「……いつから待ってたの」
「そんなに待ってない。終電って言ってたからそれにあわせて来たし」
 そうは言ったけど寒そうなその顔から察するに、結構待ってたっぽくて胸が痛くなった。
 その場で向かいあったまま、お互いに無言。改札口からいっせいに吐き出された同じ電車に乗ってた人たちもみんな通り過ぎちゃって、すでに人はまばらになってる。やっぱり怒ってるのかな。決定的な何かがあったわけではないと思うけど明らかに微妙な空気は嫌な予感しかしない。
「家、行ってもいい?」
 やがて宗久が言う。もちろんOKだというと、宗久は私の手を引いて歩き出した。
 来てくれるんだ。それとも別れ話は落ち着いたところでしたいとかそういうことだろうか。別れ話ならいっそメールで済ませてくれてもいいくらいなのに。仕事だって忙しいんでしょ。今日じゃないといけないくらい急ぐの?
 こんなことなら、もっとお酒飲んでおけばよかったな。べろんべろんになるくらい飲んで、佐野さんに送ってもらって、捨て台詞くらい言ってやればよかった。
 マンションまでの帰り道、車の通りはあるけどさすがにこの時間、人通りは少ない。会話もないから妙に夜を感じる。びゅん、びゅん、と車がすごいスピードで私たちを追い抜かしていく。僅かに宗久が前を行ってるから、彼に内緒でその後姿をじっと見た。
 宗久はそんなに背は高くないけど低くもない。紺色のショート丈のダッフルコートに黒いリュック。佐野さんはこんな格好しないだろうし、したとしても宗久のようにはいかないだろうな。出会って少ししか経ってないのに、栗色の長めの襟足の髪がもう愛おしいよ。
「一緒に飲んでた奴、送ってくんなかったの?」
 宗久がおもむろに口を開いた。
「終電とかそんな時間に桃子を一人で帰らせたの?」
「いや……送るって言われたんだけど、断ったから」
「そうなんだ」
 宗久の声色は怒っているようにうかがえる。佐野さんには遠回りになるから申し訳ないのと同時に、男の人に送らせるなんて警戒心がないかと思って断ったんだけど、送ってもらったほうがよかったの? え、どっちが正解?
「ここの道危ないからさ、送ってもらいなよ、今度から」
「え、あ……ハイ」
 宗久の辞書ではそれが正解なのね。心得ました。
「……それか、桃子がオッケーだったら」
「うん?」
「今度からそういう時は俺が近くまで迎えに行く」
「……あ、りがとう……。でも、こんなことは今後ないようにするから」
「今日みたいなことはなくても、会社の飲み会とかもあるでしょ」
 そういう機会うんぬんよりも今度そういう時にまだ宗久は私を迎えに来てくれるんだってことにジンとして泣きそうになる。私たちに『次』はあるって思っていいの?
  握られた手に力をこめると、宗久も同じように力をこめてくれた。
  今日はバレンタインで、もしかしたらもしかするかもっていう期待はあったから、朝出かけるときに部屋はきちんと片づけておいた。
 口数少なく家に着いて、部屋に招き入れるやその場で抱きしめられる。
「ごめん」
「え?」
「……いい男いた?」
「だから今日はそういんじゃなくて……」
「もう、俺無理?」
 一際強く抱きしめられた。宗久の言ってることがよくわからない。
「何? 無理ってどういう意味?」
「愛想つかして、男探しに行ったんじゃないの?」
「はあ!?」
 私は勢いよくその腕の中から顔をあげる。宗久のかっこいい顔がすぐそこにある。
「どういうこと? 愛想つかしたのは宗久のほうでしょ」
「は? 何で俺が……」
 何やら互いに勘違いしているらしいことはわかったので、ひとまず部屋にあがろうということになった。
 私がコーヒーを入れてる間、宗久はローテーブルのところで胡坐をかいて、何やら神妙にしている。
「どうぞ」
「ああ、サンキュ」
 音楽もテレビもない部屋に、マグカップを置く陶器の音が鳴る。
「仕事、大丈夫なの?」
「あんま大丈夫じゃないけど……大丈夫」
 大丈夫そうじゃないその返事に心配になるけど、「それより」と宗久が言ったので私も倣って姿勢を正した。
「確かに最近仕事が立て込んでて忙しかったんだけど、それを大義名分に桃子に会うの我慢してた」
「我慢? なんで? 私、避けられてるって思って……」
「俺さ、エロいじゃん?」
「……え? まあ……そう……かな」
 それとこれとどういう関係が? 捨てられた子犬のように上目遣いで見つめられても困ります。
「付き合って間もないのにさ、会うたびエッチばっかで。桃子の気持ちとか全然考えてなくて。でも会ったら絶対ヤりたくなるから、だから……」
「それで会ってくれなかったの?」
「ま、そんなとこ。すげー情けねえ話だけど、ちょっと落ち着こうと思って自重してた」
「そんな高校生男子みたいなことで悩まないでよ」
「そう言うけど、俺真面目に悩んでさー」
「私こそ悩んだよ。遊ばれてたんだって思って……」
「……それで次の男、見つけに行ったの?」
「違う! 今日のはホントに不可抗力なの! 嘘だと思うんならタモに説明させるし! それ以前に、私、そんなに尻軽じゃないよ。まるで、男漁るのにギラギラしてるみたいに言わないでよ」
「違うの?」
「違います!」
「彼氏いないって言ってたから、正直、誰でもよかったのかなって……」
 そんなふうに思われてたんだ。ショック……。でも、そうかもしれない。だって、その日に大した抵抗もなくお持ち帰りされちゃってんだもんね。
「信じてもらえないかもしれないけど、宗久だからだよ? 宗久だからその日にエッチする気になったんだよ。私も仕事してるときから宗久のこといいなって思ってたから。だからあの日、二人きりで嬉しかったの」
 宗久は本当に信じられないような顔をしてたけど、やがて自分の隣を指し示して、
「こっち来て?」
 テーブルの向かいに座っていた私はちょっとふくれっ面で立ち上がる。情けないやら腹立たしいやら、すごく複雑な心境。
 横に腰を下ろそうと思ったら「おいで」と胡坐の中に座らされた。後ろから抱きしめられて、髪の毛越しに何度も唇を押し当てられる。
「ごめんな。寂しい思いさせた」
 私はくるりと後ろを向いて、正面から宗久に抱きついた。
「……ねえ、私、本気で宗久のこと好きになってもいい?」
「え? 逆に聞くけど、今まで本気じゃなかったの?」
 びっくりしたように宗久が身体を引いて私の顔を見た。
「だって宗久、遊んでるんでしょ?」
「は? 遊んでませんけど」
「遊んでるって聞いた」
「誰にだよー。遊んでないよ」
「モテるでしょ?」
「モテねーし」
「嘘」
「ホントだって」
 まあ、自分で「俺モテるし」なんていう人もイヤだけど。
「みんな言ってるもん。神山さんは遊んでるって」
「みんなってダレー?」
 降参とばかりに天井を仰ぎながらそう言って、私を包み込むように抱きしめる。
「吉村さんかー? もうあんなヒトの言うこと信じなくていいから俺を信じてよ。遊んでない」
 正しくは角川さんとか角川さんとか角川さんですが。しかも、それも伝聞でもなんでもなくただの角川さんの男の勘ですが。
「……だから、本気にならないようにしてたの。気持ちにブレーキかけてた」
「そんなブレーキ壊してよ。悪いけど、俺はもう本気だから」
 じわりと涙が滲んできた。
 本気じゃないなんて嘘だよ。ブレーキかけてたのはホントだけど、そんなのとっくに効かなくなってる。本気になっていいかなんて聞いたのはただの強がりで、もう十分、どうしようってくらい本気なのは私のほうだから。

  
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