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佐久間マリのオリジナル小説ブログ 18才未満の方の閲覧はご遠慮ください

   
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エブリデイ キス!(18)
(18)

「ふあ……」
 今朝からもう何度目かわからないあくびを慌てて飲みこむ。
 午後イチ、そうでなくても眠い時間帯。極度の寝不足にはこれ以上ない試練だ。
 たまに目があう角川さんの視線が、「だって昨日はバレンタインだもんな」と言ってるように邪推してしまう。というのも身に覚えがあるからで、そのとおり宗久とイロイロあってそのせいで寝るのが明け方になったんだけど。
「ふぁ……」
 とそんなことを考えているうちにも、またあくびに襲われる。やっぱり平日の夜は自重すべきかもしれない。
 お昼にスマホをチェックすると、宗久とタモからメッセージが届いていた。
 宗久からはチョコレートのお礼。盗難にもカラスの被害にも遭うことなく無事だったとあった。メッセージカードもありがとうとか言われて、あの時は重く思われないように敢えて当たり障りのないこと書いたんだけど、今となってはもっとちゃんとした愛の言葉でも書けばよかったって後悔。
 そういえば、結局チョコレートを何個もらったか教えてくれなかったけど、何も心配することないよね。全部、同僚とか仕事関係の義理チョコだよね。ホワイトデーのお返しを一緒に選んであげてそれとなく聞き出そうと密かに思う。
 タモからは『昨日、どうなった?』って興味津々の内容だけど、そういえば昨夜別れたときは私は佐野さんの二人だったんだ。宗久とのそれからが濃厚すぎて完全に忘れてたけど、タモは好き放題想像をしてるようだ。
 佐野さんから昨夜に帰りましたメールのやり取り以降連絡はないけど、それも当然だと思う。今後のために連絡先を交換したわけじゃないし、私に彼氏ができたのも知ってるわけだし。この先、会うことはもちろん連絡を取り合うこともないだろう。
 タモには『いろいろあって、昨日彼氏と仲直りした』と返しておいた。さすがにもう余計なことはしないよね。佐野さんは確かにいい人ではあったけど、いかんせんタイミングが悪かった。
 いつもと変わらない午後のオフィス。ちらりと時計を見る。十三時四十分。
 仕事が全く手に着かないのは午前中からのことだけど、今は眠気のせいじゃなくて緊張。とりあえずパソコンは叩いてるけどほぼパフォーマンスって感じで、集中力は皆無、気もそぞろ。というのも、十四時に宗久が会社に来る。うちの課の来客じゃないし、私が会議に入るわけでもないけど、そりゃ気になるってものだ。
 刻一刻とアポイントの時間が迫ってくる。遅刻したりしないかな、吉村さんも一緒なのかな、ってもう気が気じゃない。
 うちの会社は受付嬢とかいなくて、お客様は受付のところにある電話の内線で担当部署を呼び出すシステムを取っている。
 約束の十四時の少し前、二課の内線が鳴った。絶対、宗久からだ。普段他の課の電話に耳をすますことなんてないけど、なんなら私がその電話を取りに走りたいくらい。もう心臓がばくばくして仕方ない。だから、私にはなんの関係もないんだって!
 その内線電話に出たのは魚住さんで、受話器を置いた彼女は小走りで入口に向かった。ってことは、担当はやっぱり魚住さんなのか。得てしてこういうことは、そうならなければいいなと思った方になるという皮肉なものだ。
 宗久を信じてないわけじゃないけど、かといって信じてるっていうほど信頼関係があるかっていうとそれもまた微妙で、魚住さんが社内一の美人とかいうわけでもないんだけど、なんとなく気分が沈む。でもそれも一瞬のことで、なんと現れた宗久がスーツ姿だったから私は鼻血が出そうになった。
 吉村さんも一緒で二人は魚住さんに案内されて、会議室に入って行く。
 スーツで来るとか聞いてない!
 想定の範囲外だよ! なにあれ、そんな格好でみんなの前に現れないでよ!
 私はもう宗久に釘づけだけど、彼は私に気づいてないようだった。一対多数だし、私の席は通路沿いとか目立つ場所でもないからわからないのも当然。目も合わなかったのはちょっと残念だけど仕方ない。
「アレ、吉村さんと神山さん?」
 向いから角川さんがこそっと聞いてきた。
「ええ、今日挨拶と打ち合わせに来るって言ってました」
「ああ、二課の仕事かあ」
 お茶出しする魚住さんの顔がキラキラしてるのは私の気のせいだよね。
 それからの一時間ほど、打ち合わせの間午前中以上に仕事は手に着かなかった。
「スーツで来るとか聞いてなかったよ!」
 思わず私は、その夜かかってきた電話で開口一番宗久に言った。
 今日も例のごとく、コンビニに夜食を買いに行くところらしい。遅くまでご苦労様です。
『えー? だって、普通そうじゃん? 取引先だし』
 確かに言われてみればそれもそうだ。別に、変な服装で来たわけでもなく、取り立てて言うことでもないんだけど、カジュアルな格好しか見たことなかったから新鮮というか、不意打ちでかっこいい姿見せられるとね。スーツ姿にトキメク大学出たてのハタチそこそこの女子でもあるまいし。でもまあなんというか、そう、結婚式で新婦のドレス姿を見た新郎の気分に近いかもしれない。
 今もスーツのままなのか聞くと、宗久は事務所に戻って即着替えたと言った。それはそれでちょっと残念。着ていたからって見れるわけじゃないんだけど。
『でもまあ、普段あんまり着ないからね。なに、惚れ直したの、桃子ちゃん』
「……うん」
 得意気にそう言うからちょっとムカついたけど、本当のことなんだから、小さく頷いておく。
『桃子はどこにいるか全然わかんなかったよ。キンチョーしてたし』
「緊張? してたの?」
『だって彼女の会社じゃん?』
 そういうものなのかな。確かに、もし私が明日、Mデザイン事務所に行くってなったら確かに緊張する。仕事の内容じゃなくて、宗久の彼女として。だったらその時は宗久も、今日の私みたいに仕事が手に着かないのかな。またお伺いする機会があればいいのになと思う。動機が不純だけど。
「うちの案件で忙しくなりそう?」
『んー、まあね。でも実際忙しくなるのはまだ先かな』
「仕事、一年続くんでしょ」
『うん。桃子の会社ともしばらく付き合いが続くから俺たちも別れられないよ。今日みたいなことあったら気まずいだろ』
「別に直接顔を合わせるわけじゃないからどってことないけど」
『なんだよー』
 強がってみたものの、それって最低向こう一年は別れないって思っていいの? 宗久が保障してくれたんだかね。言質とったからね! こんな睦言、いざ別れる時には何の拘束力もないってわかってるのに、それでも今の私には十分な安心材料だ。ほんと単純だよね、恋って。
『それでさ、今度の桃子のところの仕事でリーダー任せられてさ』
「へえ、出世?」
『そうそう。今までサブだったから』
「すごいね」
『すごかないよ。やることは今までとそう変わんないのに責任だけが重くなるっている』
 私には内容は詳しくわからないけど宗久が認められて期待されてるってことだよね。ちらっと話してくれたことがあるけど、確か宗久のグループはデザイナーさんが六人って言ってたから、それをまとめるのかな。
「頑張ってね」
『頑張るから、日曜日会いたい』
「なにそれ」
『もっといえば、できれば土曜の夜から。いや、俺の頑張り次第だけど、土曜の午後から桃子さんの予定空いてますか』
「土日とも空いてるから宗久の仕事が終わり次第で、いつでもいいよ」
『やった』
「無理しないでね」
『無理してでも桃子に会いたいんだって。一分一秒でも多く』
 そして宗久は『桃子、好きだよ』って言ってくれた。
 今日は木曜日。今朝まで一緒にいて、明後日には会えるのに一分一秒でも早く会いたくて仕方がない。

  
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