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佐久間マリのオリジナル小説ブログ 18才未満の方の閲覧はご遠慮ください

   
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エブリデイ キス!(19)
(19)

「桃子って魚住さんと友達?」
 土曜日は宗久の努力の甲斐あって昼過ぎには会うことができた。けれど開口一番登場した名前に、もう嫌な予感しかしない。いつものように宗久の会社近くまで私が行って、前から気になっていたカフェで待ち合わせて、そこまではすごく順調で気分よかったのに!
「……そんなに親しくないけど……どうして?」
「んー」
 宗久が言葉を明らかに濁すから、単刀直入に聞いた。
「もしかして狙われてる?」
「かも」
 何を自惚れてるのと突っ込みたいところだけど、相手が宗久だけにむしろ当然の結果。やはり私の嫌な予感は当たってた。
「……なにか、誘われたりしたの?」
「いや、やたら打ち合わせしましょうって言われて、もれなくその後メシがついてきそうな感じ。関係ないのに酒は好きかとか聞かれんの。桃子ともそうだったようにまだこの時期俺らレベルでの打合せって必要じゃないし頻繁でもないじゃん? なのに毎日メールとか電話とか来るんだよね」
 プロジェクトが始動してまだ一週間も経ってないというのに。魚住さんってばかなり肉食系なのね。狙った獲物は逃がさないその行動力というか、女子力の高さにただただ感心するばかりだ。
「若いよね……」
「だねー、いちいちリアクションがでかくてさ。彼女、何コ下なの?」
「三年後輩だから……二十五かな」
 私の声はちょっと小さくなっちゃった。だってライバルが若いって不利でしょ。だけど、
「二十五と二十八の差ってでかいよな、意外と。二十五は二十歳寄りで、俺らはもうとっちかつーと三十グループの方だもんな」
 宗久と同じ括りに入れてもらえたことで優越感なんて感じてる場合じゃない。同い年なんだから当然だし、オバサンって言われてるようなもの。
「……いいよね、女の子は若い方が」
「まあ、ケースバイケースなんじゃね?」
「なによ、それ」
 私だって一応二十代。でも確かにあと二年なんだけど。
 お肌のこととか魚住さんの行動力とかと自分を比較して卑屈っぽくなっている私に、
「トシ関係なくさ、興味ない子からがつがつ来られるのってただただ引く」
「そういうものなの……?」
 その一言でとたんに心が軽くなるから私も大概現金だ。
 桃子もそうじゃない? って聞かれて考えた。
 すみません。あまりそういう経験ないんです。でも、もし佐野さんがぐいぐい迫ってきたらそれだけで嫌な印象を持つかも。ってこんな時だけ引き合いに出してごめんなさい。
 それにしても、私が一緒に仕事してるときにがつがつしなくてよかったとつくづく思う。もっとも積極的になりたくても自信がなくてできなかったんだけど、こういうのを怪我の功名っていうのかな。
「んじゃ、特に彼女と仲良くしてないんなら言っていい? 桃子とつきあってること」
 そう言って仕切り直すようにコーヒーを一口飲む。
「宗久から言ってくれるの?」
「俺が言ったらダメなの?」
「ううん、嬉しい」
「嬉しいってなんで。ホントのこと言うだけじゃん」
 宗久が笑うからきゅんと泣きそうになっちゃった。なんて、かっこいい彼氏なんだろう。顔じゃなくて、もちろん顔もだけど、やることがいちいち男前すぎる。
 私が言うと変に女同士、ライバル意識持っちゃうとも限らないし、それよりなにより宗久自ら言ってくれるってことは一ミリたりともも魚住さんに興味ないってことだよね?
 魚住さんとは課も違うし、彼女は同期の子たちと仲良くしてるからあまり関わり合いはない。給湯室とかトイレとかで会って、たまに一言二言交わすくらい。
 仕事がきっかけで付き合いはじめたのはバレバレだし恥ずかしいけど、ここは予防線きちんと張っておきたいところだし、それを宗久がやってくれるなんて理想的だ。
「じゃあ、今度それとなく言うわ」
「うん」
 そして私達はお店を出た。今日も即決満場一致でおうちデート。だってなかなか二人でゆっくりする時間がないんだもん。
 宗久は自転車を会社に置いてきたらしく手を繋いでアパートまで歩く。
 私を覗き込んで、
「彼女のこと、心配?」
 宗久は、今できる時点で百パーセントの誠意を見せてくれてる。いまだある不安はただのわがままの範疇だ。だから私は笑って「ううん」と言ったのに、宗久はあっさりと私の心の隅でわだかまっているものを見透かして、
「あのねー、俺、別に一緒に仕事した女の人全員にこういうことしてるわけじゃないから」
 そう、そこなんですよ、私が気になっちゃってるのは。
 宗久は歩みをやめた。どうしたのかと顔を上げると、彼がまじめな顔つきで私を見ている。
 そして、またしても私の心中をずばり察したように、
「いい機会だからはっきりさせておく。最初にヤッちゃったからこんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど、俺、軽い気持ちじゃないよ」
「……うん」
「ホントに、一緒に仕事してこの子イイなって思ったから。だから桃子のこと抱いたんだよ」
「うん」
「今すぐじゃないくてもいいから、いつかは俺のこと全部信じて。信じてもらえるように俺、頑張るし」
 私は、違うっていいたかったけど言葉にならなくて、でも伝えたくて必死に首を振った。ちゃんとわかってるの。どうしてか自分が幸せってことを認めたくなくて、重箱の隅をつつくように針の穴みたいな不安を見つけては、それを何度も繰り返し宗久にぶつけて。それでも宗久はいつだって誠実に応えてくれた。
「……宗久、大好き」
 泣きそうになって私が言うと、宗久は満面の笑みをつくった。
「はじめて、好きっていってくれた」
「……そのこと、もしかして気にしてたの?」
「うん、なかなか好きって言ってくれないから」
 そう。心の中では何度も何度も叫んだけど、実は口に出す「好き」は実は切り札にとってあったの。いわば若さという勢いと自信を失ったアラサーのなけなしの知恵かな。追いかけるより追わせろっていうのは恋愛ハウツーの基本の『き』だよね。
 二十八歳、そういう駆け引きをしながら、少しだけ恋の操縦ができるようになった。裏返せば、年齢と反比例してどんどん臆病になっていく大人の女性の防衛策なんだろうけど。
 宗久のアパートに帰りついて、靴を脱いで部屋に上がって、手を洗ってうがいをして、妙な無言のあと、どっちからともなく静かに抱き合ってキスをした。
 もう陽は西に傾きはじめていて、オレンジ色に薄暗くなった部屋で立ったまま、唇、おでこ、唇、頬っぺた、唇、瞼、と触れるような、まさに降らせるっていう形容がぴったりのキスを宗久がくれる。くすぐったいけど気持ちいい。
 一歩外に出るとそこには土曜日の日常生活があって、道を行く子供の声や掃除をする部屋の音が当たり前のように聞こえてくる。私達はそれとは別次元のような空気の中にいて、少しずつ着ているものを脱ぎながら、いつになくゆっくり時間をかけてベッドに横になった。その時点でお互い十分に準備は整っていたけど、早急に一つになろうとは思わなかった。
「もっと、桃子に触れたい」
 宗久の手はくまなく私の身体をなぞっていく。その途中には何度か敏感な箇所があって、もちろんそこは他よりも少し執拗に指が彷徨ったが、それが私に性的な快感を与えるというよりは、彼自身が私を感じ、確かめるように思えた。それでもちゃんと指で一回イかされたけど。
「……桃子と一つになりたい。いい?」
「う……ん」
 私が下で、宗久が上になって、そう尋ねた宗久の目は珍しく赤く情欲に潤んでいる。まだ挿入の前なのに。
 そして、驚くほどゆっくりと入ってきた。異物の進入をまざまざを身体にわからせるみたいに。
 一思いに奥まで入れてくれればいいのに、徐々に深みを目指してくるからなんだか切なくて、苦しい。
 長い時間をかけて、私と宗久の凹凸に隙間がなくなったところで宗久は私をぎゅっと抱きしめた。私の中でそれがちょっと大きくなった気がする。
「……マジ、好き」
「……ん。私も、好き」
「好きだから」
「うん」
「すげー好きだから」
 私のナカで宗久のがピクピクしてるのは気のせい? 
「……あ」
「ど、うした……?」
「あっ、は……」
 宗久の発する声が今日は妙に色っぽくて、その吐息の一文字一文字に脳天を刺激される感じ。
「なん、か……ね」
 変な感じなの。自分の中も痙攣してるみたいにびくびくしてきたのがわかる。
「桃子んなか、なんか……すごい、俺にまとわりついてくるような……はっ、やば……動くよ?」
「だめっ、今……動いたらおかしく……なりそう」
「もしかして、イキそう?」
「あっ、あっ……」
 突かれてもないのに声が出ちゃう。恥ずかしい。
「いいよ、イッて……」
 宗久がさらにぐっと腰を入れ込んできた。
 精神的な結びつきが体という物理的なつながりを超えるとき、何もしないでも達することがあるって聞いたことがあるけど、もしかしてそれなの?
「ホント、ああっ、……だめっ。おかしく、なるっ……」
「おかしくなって」
「やあ……あっ、あっ、あっ……」
 宗久は私の中に入ったまま、もう一度ぎゅっと抱きしめてくれた。宗久だって動いてるわけじゃないのに背中がじっとり汗ばんでる。
「ああっ」
 耳元で好きだって囁いてくれたのを同時に私の瞑った目の中が真っ白になって、体の力が全て抜けた。

  

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